「軍人達のアフター0」
2.4
私の名はフォ・・・
「でさー、そこで言ってやったのよ。男のくせにメソメソするな!ってね。
そしたらさ~次の日そいつ女だったら問題ないんだと思ったのか女装してきちゃってさ。
あの時は笑ったわ~」
肩をバンバン叩かれる。酔っ払いは容赦がない。
必死で笑顔を繕いながら思った。
なぜこんなことになったのだろう・・・
今日は低血圧の私がスッキリと起きたことから始まった。
フォーク家の伝統的料理フレークの牛乳がけを食べながら
今日はいいことがあるかもしれないと浮かれていた。
多分、それがそもそもの間違いだったのだろう。
補給部へ書類の提出に訪れる途中でアデーレ嬢に捕まった。
この間BARの前でライラ殿と一緒にいたところを見られたらしい。
ああいう人が好みなんですか~、ふ~んとなにやら怪しい微笑み。
その後延々30分ほどへ~、ふ~ん攻撃に捕まり上司に遅い!と怒られた。
私のせいか?
仕官食堂でランチのヌードルスープをすすっていると向かいの席にアッテンボローが座る。
見ましたよ~、どうやらこの間BARでライラ殿と飲んでいたところを見られたらしい。
その後実は記者志望だったというアッテンボローから質問攻めにあい、
気がつくと昼休憩終了。
後に残されたのはすっかりさめて伸びきってしまったヌードル。
おいおい、スープを吸いきって膨れたツラでこっちを恨みがましく見ないでくれ、っていうか
私のせいか?
とまあ、その後も大小さまざまな珍事にみまわれ、
やっとの思いでオフィスを出たのがたしか22時過ぎ。
今日は疲れたので帰ろうか、と帰路につこうとしたら
後ろから首を絞められた
チアノーゼ寸前まで追い込まれた後、しめつけが緩んだのですかさず振り払い
ブラスターを!と、目の前にいたのが
女の子に銃を向けるなんて!
と怒っているフリィダム嬢
その前にあなたに殺されかけたんですが
とは、とても口に出していえないほど怒っている。
なんでだろうと?と内心首をかしげていると、
この間BARの前でライラ殿と一緒にいたところを見られたらしい。(マタカ・・・)
それが理由かとたずねたらそうだという。なんでだろうと重ねて質問すると
だって少将ばっかりいい女と縁があって!だそうだ
嫉妬で絞め殺そうとしないでほしい
と、いうことで怒れる嬢をなだめるためになじみのBARに
お付き合いすることになったのが二時間前。
既に日も変わり「エン」もたけなわ、な周りは無視の方向でひたすら嬢はしゃべる。
彼女は帝国からの亡命者とは知っていた。
先ほどから話題にあがってるのは、向こうにいたときの友達だった。
バシュトゥルクという男の事らしい。笑いながら話している中に時々かげりが入る。
こちらに亡命する際になにかあったのだろうか?
しかし、そのような突っ込んだことは聞くわけにはいかない。
帝国にいたころの嬢を想像してみようとしたが、
私の知っている嬢は同盟人の嬢であり、結局失敗に終わった
いつのまにか隣では口数の少なくなった嬢が舟をこいでいる。
やれやれ、しょうがない。
勘定をすませ、店の外で車を拾い嬢を乗せて扉を閉める。
遠ざかる車を見やりながら、私は寒空の下を歩き始めた。
なぜかって?さっき嬢をのせた車代で財布が空になったからさ。
これも私のせいか?
私のせいなんだろう。なまじ釣り合いの取れない美女とお知り合いになった報いだな
と無理やり納得させ、まだまだ先の長い家までの道を歩き始めるのであった。
「軍人たちのアフター0」
2.6
ネオフリィダム殿「いい女独占罪により絞首刑!」
Σ( ̄□ ̄;)!!
といったところで目が覚めた。リアルすぎる。
そんな各方面から命を狙われつつある私の名はフォーク。
同盟の誇る若き英才だ。階級は少将。
最近艦艇輸送にも助っ人が増え、暇だ。
今日も周辺宙域の海賊討伐を難なくこなし、任務終了。
時刻はまだ19時過ぎ。近頃すっかりなじみとなったBARに足を運ぶことにした。
扉を開けるとそこはいつもと違った空気だった。
若者が店内に多く、ジャズピアノの流れる静ではなく、
アップテンポの激しい動の音楽が流され、奥のフロアでは一段競りあがった
舞台の上で数人の客が音楽にあわせ軽快に踊っている。
いつものカウンター席に座り、注文がてら、
いつもと違いますねと聞くと、マスターはむっつりしたまま
「客に色々な楽しみ方を提供するのがプロだ」とボソリとつぶやく。
明らかにこういう感じは自分流ではないが客が楽しめるならと、
半ば腹をくくってるような姿に感心した。
自分の流儀を曲げて何かを通すのは結構難しい。
確かに自分の流儀を貫き通す人たちもプロと呼ばれ、
その突き詰めた姿勢と技術に客は喜ぶ。
しかしこういった柔軟な姿勢で誰かのために何かを提供するといった姿勢も
経営者としてまたプロの姿の一つなのかもしれない。
と唸っていたところでカウンター側の扉から誰かが入ってきた。
どうやら、取引している酒屋らしい。
店内に飾ってある酒のうちいくつかストックが切れかけていたので
急遽注文し、届けてもらったようだ。
テキーラを飲みながらふと、その酒屋が誰かにそっくりなことに気づいた。
どこで・・・あ!
と思ったところで向こうもカウンターにいた私に気づき口をオーの字に開けた。
それは同僚のライアー殿だった。
何をされている?とたずねたところ、
しまった!といった顔でストップしていたライアー殿は
しばしうなったあと内緒ですよといったあとで
「実は小官の実家は酒屋でして。たまに手伝うんですよ」
と告白する。
ほう、しかし実家の手伝いがそんなにヒミツにするようなものか?と聞くと、
そりゃあ!と自分の声が意外と大きかったことに気づいて慌ててトーンを落とすと
「実家が酒屋ってだけで、やれ今度格安で酒を売ってくれとうるさいんですよ。
こっちも商売ですからね。客が増えるのはうれしいんですが、採算度外視てわけにはいきませんから」
なるほど、彼もなかなか苦労しているようだ。
頭をかきつつライアー殿はそれにと、付け加える。
「実家の手伝いとはいえじゃがいも、失礼。
ドーソン閣下などに知られるのははなはだまずいわけでして」
ああ、規律の固まりの彼に見つかると確かに色々と面倒だ。
ヒミツを確約するとライアー殿は「一杯おごりますよ」
と私の隣へ腰掛け自分もバーボンを注文する。
どうやらここで今日の配送手伝いは終わりらしい。
注文の品が運ばれ、それでは、と乾杯をした。
しかし、なんだかライアー殿はそわそわして落ち着かない。
しきりと奥のフロアーを気にしているようだ。
なんだろうと目を向けたところでひときわ大きな歓声があがった。
どうやらフロアでのダンスタイムが終わったようだ。
そのうちの一人が少し上気した顔で額に浮かんだ汗を拭いながら、
カウンターのほうにツカツカと律動的な歩みで近寄ってきた。
スクリュードライバをと注文する横顔を見て、なんだかこの人とも面識があるような、
と首を傾げてるとライアー殿が少し緊張した感じで声をかける。
すると振り向いたその女性は笑顔になった。
「あれ?ライアーさん。今日も実家の手伝い?
それに今日はフォークさんも。珍しい組み合わせね」
思い出した、トリウム殿だ。確か誰かの副官兼秘書をやっていたような。
残念ながら思い出せない。
しかし、物静かな印象だった彼女が今はむしろ華やかなので戸惑いを感じる。
それに気づいたのか、トリウム嬢は少し苦笑すると
「結構ストレスたまるんですよ。それでたまにこうやって仕事帰りに踊りにくるんです。
でも見られたのはフォークさんで二人目です。
なるべくみんなに知られたくないので秘密にしてくださいね」
またヒミツか、と思いつつ確約する。
トリウム嬢はグラスをあけ、ありがとうございます閣下、
と笑顔で軽く敬礼をした後、「では」とまたフロアのほうに戻っていった。
去っていく後姿からふと横をみやるとライアー殿の魂がポヤ~と抜けかけている。
それを見て、なんとなく彼が実家の手伝いを進んでやっている理由がわかった。
このBARに何度もきても何度出会っても不自然にならない理由がほしかったのだと。
その後、魂が戻ってきたテンション2割り増しのライアー殿としばし飲んで店をあとにした。
今日は秘め事の多い日だった。